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コピーライターの筆記具。
2018年05月17日

 こんにちは、石井です。今日はぼくが駆け出しのコピーライターだった頃の話。(年をとると昔話や自慢話が増える、と若い人に言われますが)お許しください。

 当時は広告制作のすべてがアナログで、今と比べるとのんびりしていたかもしれません。実際にはその時代その時代で必死だったとは思いますが。

 まず、コピーはすべて手書き。筆記具はあの青いステッドラーの2B鉛筆。毎朝、10本くらいを鉛筆削り機で削ると、右手の小指の下を真っ黒にして書いた。広告会社支給の原稿用紙は、横にも縦にも使える25マス×16マスの400字詰め。読み間違いのないよう、角ゴシックのような独特の書体で、1マス1マスていねいに埋めていった。

 キャッチフレーズは、原稿用紙に一本ほぼ25字以内で一案ごとに改行して書いた。ボディコピーは不要になったコピー用紙の裏に下書き、誰も読めないような字で、できるだけ小さな文字で書いた。それを推敲してから、原稿用紙に清書した。清書が仕事の半分くらいを占めていた。

 提出が決まったキャッチフレーズ案は、原稿用紙にサインペンで大きく清書した。鉛筆で清書したボディコピーは、デザイナーが手描きしたラフスケッチといっしょにプレゼンした。キャッチフレーズのタイポグラフィもデザイナーの手書きだった。修正があれば、再び手を真っ黒にして全文を清書して提出した。原稿用紙を何枚も清書するには、結構体力がいった。

 やがて、ワープロが登場すると、清書から解放された。当初、ワープロは笑えるほど大きく、まるでミシンのようだった。まもなく、ワープロもパソコンに変わった。パソコンになってコピーライターの仕事がどう変わったのか改めて考えてみる。確かに便利にはなったんだけど、手書きとは何かがちがう。

 小説家には手書き派とパソコン派がいるらしい。小説家が手書きにこだわるのは、なんとなくわかる。手書きのほうが小説の世界に没頭できるし、集中して執筆できるような気がします。

 コピーライターから小説家に転身した林真理子さんも、手書きにこだわる作家の一人。「書き始めると手が勝手に動く」そうです。うらやましい。そして、書き疲れると「手は切り上げるタイミングを知っている」といいます。それが文章のリズムになる。パソコンは楽に書けるから、だらだらと書き続けてしまう。それでは読み手が飽きる、いい小説は書けない、というわけです。

 いま、このブログもパソコンで書いていますが、本当にだらだらと書いている気がします。そろそろまとめに入らないとね。

 パソコンでは、ローマ字入力して、文節ごとにひらがなを漢字変換して書いています。もう、慣れてしまったので、それほど抵抗はないのですが、漢字変換のたびに関係のない漢字が見え隠れするし、そのたびにイメージが散漫に。なかなかいいボディがまとまらないときは、下書きを手書きします。それでいいボディが書けるか、というとそんなに簡単ではないのですが。

 ただ、キャッチフレーズの場合は、漢字変換で思いも寄らない同音異義の言葉に気づいて、いいコピーが生まれたりすることもありました。そのときはラッキー!

 今はというと、キャッチフレーズは愛用のボールペンで手書き。一時期、万年筆を試したこともありますが、ブルーのインクが美し過ぎて、どのコピーも良く見えて・・・というのはもちろん嘘です。やはり原稿用紙がインクで汚れやすい、手が汚れるなどの理由で、ボールペンに落ち着きました。写真のボ-ルペンは、軸が太いので疲れません。もう30年愛用しています。

Writing:Ishii